いちエロゲライターの東京クロノス感想

前々から気になっていた本作、ようやくOculusを手に入れてプレイしたところ色々と感じるところがあったので、基本的にはネタバレなしで思うところを書いていこうと思います。

で、誰?

「えある」という名前で、シナリオライターをやっています。
エロゲシナリオ書いたり、同人(CyberRebeat)では本作と同じくSekai Projectさんにお世話になっていたり、あとはプログラマとしてUnityでノベルエンジン作ったりなんだりしています。
VRノベルゲームは作り手側としても興味があるような立場になります。

東京クロノスのいいところ

そもそも出来がいい

VR+ノベルゲームを謳うゲームはいくつかあるようですが、 本作のような規模の作品は(話題性なども含めて)初めてだという認識です。 スタンダードなデザインが確立していない中で、本作はUIや演出表現、もっと言えばシステム面まで、 非常に考えられた上に丁寧に作られている印象を受けました。

また個人的には、本作のような前例のないシステムを破綻なく組み上げたプログラマ陣にも拍手を送りたい。
バグどころか各種演出などにちょっとした違和感すら感じなかったのは、普通にすごいことだと思いました。

ノベルゲームである

本作未プレイだと勘違いするかもしれませんが、本作は全ての動きが3Dで再現されているわけではありません。
この辺りは、以下の記事を見るとよくわかります。

https://news.denfaminicogamer.jp/kikakuthetower/190319c

これは記事を見た時は苦肉の策かなあと思ったのですが、実際にプレイしてみると、動作と動作の合間がスキップ可能であることで、2Dノベルゲームにおける立ち絵切り替えと同様の体験を得ることができるようにしているのだと感じました。

例えば、作中、キャラクターは(一部演出を除いて)あまり長いモーションを見せません。
ちょっとした仕草はするものの、基本的には立ち止まって会話をして、移動する場合は暗転などを挟む。3Dでありながらテンポを損ねるような長い動作は存在せず、時には吉里吉里でいうトランジションみたいな形で動きをスキップさせたりもしていて、それが本作に2Dノベルゲーに近いクリック感を提供しています。

私はノベルゲームがとても好きな人間なのですが、本作はまさに「ノベルゲームのように」読み進めることが出来ます。自分は音声を最後まで聞かずにぱっぱと読み進めることも多いのですが、そういった読み方をしてもなんら引っかかりを覚えませんでした。

VR+ノベルゲームというからには、どうしても3Dの動作がメインでそれに文字がのっかっているものになるんだろうな、という想像をしていました。けれども本作は、ゲームスピードについては完全に文章側がイニシアチブを握っていて、その辺りは徹底的にノベルゲームであろうとしているように思えます。
(この辺、3Dアニメのほうに舵を切ったProject LUXとは対照的に感じました)

最近のノベルゲーでは、立ち絵に動きをつけたり、背景をゆっくり動かすみたいな演出をしたりしていることを考えると、3Dでそれが固定する方向に戻ったのはちょっと面白いなと思います。

VRである

ノベルゲームのように読める、とは言ったものの、それはVRの必要性がない3D紙芝居である、という意味ではありません。

もちろんVRさを露骨に生かした演出もあり、それももちろんすごいのですが(例えばキャラが真横に寄り添ったりみたいな)、個人的にはそういった露骨でない部分でのVRらしさに、あーこれは2Dでは無理だなと思うところが多々ありました。
これはちょっといくつかに分けて書いていきます。

真正面に立つキャラの存在感

とあるシーンで、主人公が訪ねてきたヒロインを部屋に迎え入れる場面があるのですが、部屋の入口でヒロインと対面しているただそれだけのシーンが、非常に印象に残りました。

狭い室内のシーンなせいか、キャラクターが「目の前にいる感」がすごくって、視線の高さも一緒なので本当にキャラクターと向き合っているような感覚になります。2Dの立ち絵とは印象がだいぶ異なります。
こういう些細なところで衝撃を受けるとは自分でも思わなかったです。

自分と同じ方向に立つキャラクター

これは私のプレイした中だと確かD.C.Ⅱで始めて見たのですが、2Dのノベルゲーでも、近くにいる感じや同じ方向を向いている感じを出すために、後ろ姿の立ち絵を出すことがあります。 要はそれのVR版なのですが、やはりというかなんというか、「2Dで本来やりたかったのはこれなんだよな」といった感想になりました。

並んで歩いているのが一目で分かるのは当然としても、 例えば複数対複数でキャラクターが対立するシーンでも、自分の横や前方で自分と一緒に相手と対立してくれているキャラクターには、強い「味方感」「寄り添ってくれている感」を感じました。

真後ろなど、2Dでは視界外になる場所の存在

これはホラーなどでは非常に有効そうですが、 たとえば暗い廊下のシーンなんかは、まっさきに後ろを確認するくらいの怖さがあります。

あるいは、以下のツイートのような感じ。

パルフェのネタバレはここではしませんが、要するに「丁寧に画面を見ていれば気付けたかもしれない伏線」というのを、 自分の真横や真後ろのキャラクターの動きなどに混ぜられたら、 めっちゃすごいけどぜったい気付けないよなあと思ったのでした。

その他、思ったこと

VR+ノベルゲーム

表現方法としては全然「アリ」ですし、また本作は思った以上にノベルゲームしてるなと感じました。
VRでノベルゲー? 3D空間に文字出して何が面白いんだ?」と思う方には、 ぜひ一度体験してみてほしいと思います。

今後、特にVRを生かした演出・シナリオでない作品であっても、普通にVRノベルゲーとして出てくるような予感がしますし、そうなってほしいなと強く思います。先述したように、別に露骨にVRを生かさなくても、VRであるというただそれだけでノベルゲームとして新しい価値を打ち出せていると思うので。
「ノベルゲームをVRにする必要ある?」なんてよく言われますが、本作をプレイすると、めっちゃ「あるよ!!」って言いたくなります。

ただ一方で、作るのこれめっちゃお金かかるよなあ…とも。
主に3D関係のリソースまわりには、本作も苦労したんじゃないでしょうか。あとシナリオの〆切めっちゃ早そう。しかも、本作は分かりませんがVRのゲームは普及率の関係で売上がそこまで伸びない?と聞いたことがあるので、現状だと制作のハードルは高いよなあという印象です。

東京クロノス・ロス

東京クロノスでVRノベルゲームいけるやん!ってなったのでもっとやりたいのですが、いかんせんそもそもそうしたゲームがほとんどないという状況です。つらい。
結構同じ状況のユーザーさんいるんじゃないでしょうか。最近苦しい話を聞くことも多い業界各社、これはワンチャンあるのでは…?

総評

VRノベルゲームという新しいジャンルの可能性を、大きく切り開いてくれた作品だと思います。

唯一、肝心のシナリオだけはちょっと物足りなさを覚えてしまって個人的には残念だったのですが、それでも決して悪いというわけではなく、シナリオにもちゃんと力を入れている作品だと思います。評価も高いですしね。

VR機器が必要というハードルの高さはありますが、もし2Dのノベルゲームが好きな方であれば、「VRでノベルゲーなんてしてどうするの?」なんて言わずに、ぜひプレイしてみてほしいと思います。ほんと、凄いので。

えある


余談
ちなみにVRノベルゲーム制作ワンチャンあるけどシナリオライターがいない、みたいな奇特な状況の方がいたら、ぜひお声掛けください。
Oculusつけてお話聞きにうかがいます。

そんな感じです。よろしくお願いします。