TrymenTと「再挑戦」(ノベライズにあたって)
このたび、「TrymenT ―今を変えたいと願うあなたへ―」という作品で、ノベライズを担当させていただくことになりました!
こちらは2020/2にリリースされた作品であり、また既報の通り、iOS/Android版の正式リリースが予定されています。
ノベライズにあたっては「脚色」という肩書きの通り、基本的にゲーム版をベースとしつつ、小説として読みやすいように多少手を入れたほか、新規のシーンなどもいくつか収録されております。
詳細は上記公式サイトよりご確認ください。
以下、このTrymenTという作品について少しだけ語らせてください。
TrymenTノベライズに際して
さて、それでこのTrymenTという作品なのですが、こちらは2016年に発売されたゲーム「Re:LieF~親愛なるあなたへ~」と非常に関係が深いものの、具体的にどういった関係なのかがうまく伝わっておらず、「新作なの? 続編なの? あるいはリメイクなの?」となっている方もいるかと思います。
こちら結論から書くと、実は発売直前あたりで公式Twitterにて言及されており、「別の視点の完全新作」というのが回答となっています。
よって、「Re:LieF」体験版の日向子視点での物語のみ概ね共通しており、同時間軸なので
— TrymenT🌕小説版Kindleストアにて配信中 (@TrymenT_PJ) 2019年11月19日
「TrymenT」「Re:LieF」どちらからプレイしたかによって、もう片方の作品の見え方が変わると思います。
片方プレイ後、興味がありましたらぜひもう片方の体験版をプレイしてみてくださいね。 pic.twitter.com/4T8fGOqQQS
少なくともRe:LieFのR18シーンを削ってちょっと整理したもの、という意味での「リメイク」ではないことは確かです。登場人物に重複は多少ありますが、お話はまったく別のものになっています。
それで私は両作について異なる立場から関わっているので、その辺りについて、個人の感想を少し書いていければなと。ちなみにネタバレはありませんのでご安心ください。
私について
まず少しだけ私自身の説明を。
前作「Re:LieF」では、メインライターとして制作に参加させてもらっていました。体験版~共通ルートや最終ルートなど、まあ、そういった部分を担当しています。あと全体のシナリオ監修や一部ルートもですね。一方、今作TrymenTでは制作から外れており、完全にいちユーザーとして開発を見守っていたという立場になります。なので内容については何も知らない状態で、ほかのユーザーさん達とまったく同じように「どういう作品になるんだろう?」と期待と不安を胸にリリースを待ちわびていました。
そうしてリリースされた「TrymenT」という作品。そこにあったのは、Re:LieFと似て非なる、また別の美しい物語でした。その後、縁あって再びこうして関わることになり、またノベライズにあたりいくつか資料を読ませてもらったところ、「ああ、こういうことだったのか」と、一連の経緯などについて私としては非常に納得のいく部分がありました。
以下、その辺りについて詳しく書いていければと思います。
TrymenTとRe:LieFの関係性
この話をするには、先にRe:LieFについて話す必要があります。
Re:LieFについてはこちらから
これはおそらく初めて話すのですが、Re:LieFという作品は、製作途中で一度大きな書き直しを選択しています。
当時はちょっと開発上の問題が発生しており、私はその解決を任されての途中参加でした。いろいろと事情はあったのですが、このときプロットなどに大きくメスを入れさせてもらい、結果、もちろん大筋の設定やテーマにブレはありませんが、そこに至るまでの道筋や演出などは、当初の予定とリリースされた内容は多少見せ方が異なっています。(念のため補足しておきますが、スタッフの誰かが悪いとかそういう話ではないです)
Re:LieFをプレイした方は分かるかと思いますが、Re:LieFは非常に焦点を絞った物語です。そこが少なからず評価された点でもありますし、私もできる限りのシナリオをお届けできたつもりです。ただ創作物の常として、そこにはもう少しだけ別の見せ方、別の可能性があったのも事実ではあります。Re:LieF当時からの企画かつディレクター、そしてTrymenTではメインライターも務めている雫将維氏の世界観は、本来はもっと幻想的で、壮大で、とても視野の広いものでした。
おそらく「TrymenT」は、その世界観にもう一度挑戦しようとする作品です。
TrymenTと「再挑戦」
当の雫氏をはじめ、TrymenTに関わったスタッフの方から直接聞いたわけではないので、あくまで前作ライターとしての私見です。ただ、TrymenTをプレイして、ノベライズにあたりOmega編の資料などをこそっと読ませていただいて感じたのは、ああ、これはRe:LieF開発中にうっすらと垣間見たあの世界観だ、ということでした。
これはあくまで世界観・見せ方の話ですので、もちろん、Re:LieFの開発段階からTrymenTのキャラクターやプロットがそのまま存在していたというわけではありませんし、Re:LieFが何かを諦めた妥協策というわけでも決してありません。前作のメインライターとして、Re:LieFを楽しんでくれたユーザーのためにも明言しますが、Re:LieFはRe:LieFでひとつの完結した作品です。ただそれと同じくらい、TrymenTもまた一個の独立した作品だということです。
上述の経緯などから、TrymenTはRe:LieFの企画者でもある雫将維氏の「らしさ」が純度100%で詰まった作品になっています。本当に文章のひとつひとつ、演出のひとつひとつが、前作のそれとは違った文脈で紡がれています。TrymenTは公式にはRe:LieFの「別の視点」ということですが、これは別のキャラクターの視点という意味に重ねて、テーマに対する焦点の当て方や描き方そのものが別である、という意味でもあるのではないかと私は感じました。ビジュアルノベルではルートの違いがありますが、これはそれを作品単位にまで拡張したもの。前作経験者はそんなふうに考えてTrymenTを読んでいただくと、より一層楽しめるのではないかと思います。
ユーザーのみなさんには、制作過程や製作者がどうのというのは関係のない話です。ただ願わくば、前作Re:LieFと同様に、このTrymenTという「再挑戦」の物語をぜひ応援していただければと思います。私としては、今回はノベライズという形で、本作の魅力を広めるお手伝いができれば幸いです。
試してみるんだ、もう一度。
だからこれはきっと、彼らの再挑戦の物語だと思うのです。
(了)
ゲーム版のスタッフの記事などは以下から
ビジュアルノベル『TrymenT』と背景と葛藤と
TrymenTとあなただけが知る世界
今回発売されたノベライズは以下より。
TrymenT 1 Kindle版
TrymenT 2 Kindle版
ちなみにページ数からも分かりますが、今回発売された1,2巻はゲーム版でいうまだ序盤の内容です。完結済みと勘違いされないようご注意ください。